夜逃げ直前

これは私が小学生高学年の頃の話しです。当時我が家は父母兄私の4人家族で、賃貸ではありましたが関東圏の3LDKの住宅で慎ましく生活しておりました。
当時父は電車で30分の場所にある、自動車整備工場で整備士として勤務しておりました。真面目で実直な父でしたが人に頼まれると嫌と言えない昔気質の人でありましたので、よくある話なのですが同僚の借金の保証人になりました。その同僚は同じ整備士だったのですが独立し自分で会社を立ち上げたい、その際は父を店長として雇いたい、と今から思えば口から出まかせで父をそそのかし、お世話になっている先輩だったということもあり保証人になってしまいました。
案の定ある春の日に、金融会社から家に電話が入りました。子供でしたので詳しい内容は覚えていませんが、借金をした先輩の返済が期限を過ぎても返済されない、連絡も取れないので保証人である父に借金を返済しろ、というような内容だったと思います。その先輩は1週間ほど前から職場を無断欠勤していたようで、父も心配していたようなのですが、無骨な父でしたので家族には何の相談もありません。そこからは毎日のように借金取りが自宅に訪れ、父と母も夜遅くまで口論をする、地獄のような日々でした。
いよいよ夜逃げ直前かと覚悟していた矢先、意外な救世主が現れました。それは今勤めている自動車工場の社長から、借金の肩代わりを申し出られたのです。
社長を裏切るような相談をしていた父のために、まさかお金を出していただけるとはおもわず、ただ驚く父と母。それ以来父は定年まで真面目に働きながら借金を少しづつ返済していたのでした。

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